死ねなかった

私は死ぬはずだった。
死ぬ約束だった。
初めて本気で人を好きになる感覚。
思いが通じたときの身体のすべての細胞が踊りだす世界。
別れた日は彼女が死ぬ9ヶ月前。
9ヶ月。
一番苦しい時期に自分は何もしなかった。
バカな自分はふられても、20歳の成人式で変わらず好きであるという気持ちを告げるつもりだった。
簡単な話。
別れを告げられたとき、すんなりバイバイといった。
でも、本当はリベンジを誓っていた。
彼女を忘れられない、未練だらけのストーカーに一歩手前の変態だ。
ありもしない5年という未来を夢見ていた。
彼女が9ヶ月後に死ぬとも思ってもいなかった。
自分の中では5年後にも変わらず。笑っている彼女がいた。
しかし、現実は違った。
自分のすべてだった人に何もできなかった無力感。
そして、彼女に自分は必要とされていなかったという痛み。
死んでも、何の意味もない。
死後の世界があったとして、自分は孤独だった。
しかし、私は死を考えた。
彼女と交わした約束を守ることが自分の愛の表現だと思った。
彼女に伝える方法は「死」しかないと思った。
愚かな自分を呪いたかった。
もう一度彼女に会いたかった。
彼女を見ることができない辛さ、彼女の声を聞けない辛さ。
彼女はいつも自分の頭の中にいた。
彼女のことを考えない日なんてなかった。
そして、彼女がいない現実に絶望しない日もなかった。
自分は死ぬのが恐くて、愛をまっとう出来なかった人間。
彼女との約束を守れなかった。
生きている自分を責めることしかできなかった。
そして、いつしか友人が助けてくれることで死を免れたと思っていた。
本当は友人に助けてもらったのは命ではなく。
自分が死ねないという自責の念だった。
自分が貫くべき愛を友人を言い訳に投げ出した。